言語と脳の結びつき:語学学習が長寿を支える理由
イギリスでは、100歳になると国王からサイン入りのカードをもらえることをご存知ですか。現在、この王室からのカードを受け取る人が増えてきています。つまり、より長生きする人が増加し、100歳の誕生日を迎える可能性は以前よりも高くなっているということです。
現実的に言えば、私たちは永遠の命を切望しているわけではないかもしれませんが、肉体的・精神的な若さへの執着は明らかでしょう。世界のアンチエイジング市場は、年間700億ドル以上と評価され、その規模は拡大し続けているのです。
しかし、ローションや美容液を買いあさる前に、健康で長生きするためにできることはないのでしょうか?デンマークで行われた双子の研究によると、長生きできるかどうかは遺伝によって決まるのはわずか20%で、80%はどこでどのように生活するかによって決まるそうです。つまり、長寿を左右するのは生活習慣と環境であるのです。
単に長生きしたいというだけでなく、意識的によく生きることが大切なのです。
ブルーゾーンとは、慢性疾患の罹患率が非常に低く、百寿者(100歳以上の高齢者)の数が多い世界の地域のことで、科学者たちは長寿の秘密を解明するためにこれらの地域を研究しています。
定期的に行う運動は、私たちの体を健康に保ち、ホルモンシステムなどの体内プロセスをスムーズに動かすことを助け、長寿をサポートしています。また、愛する人とのコミュニケーションや食生活も重要で、ブルーゾーンで100歳を迎えた人たちは、植物性の食事を多くとっているのも特徴的です。
脳の健康と長寿は関連しています。
科学が人間の脳を完全に理解するまでにはまだ長い道のりがありますが、脳が私たちの体の機能のほとんどを担っており、長生きを目指す上で重要であることは既に分かっています。
年を取るごとに、若いころのスポンジのような情報吸収能力は失われて行くかもしれませんが、大人になったからといって脳が「固定化」されるわけではありません。大人になっても脳はまだまだ発達し、経験や学習によって形作られていくのです。
語学学習は、脳の健康と長寿を助けます。
基本的に、学習することは健康な脳を作るためにとても大切です。言語を含め、新しいスキルを身につけることに時間を費やすことは、脳の神経可塑性(成長、変化、新しいつながりを作り、新しい方法で機能する能力)を高めることにつながります。
新しい言語を学ぶことは、脳の全体的な機能を向上させ、情報の保存や想起、記憶の処理、集中力、問題解決など、必要不可欠な動作を行う能力を向上させます。さらに、効果的なコミュニケーション、積極的なリスニング、問題解決など、学習によって身につくその他のスキルも、長期的な脳の働きをサポートします。短時間の集中的な学習でも、注意力を高めることができるのです。
語学学習は私たちの脳を変化させ、認知機能の低下を遅らせるのに役立ちます。
脳スキャンによって、私たちの脳の言語関連部位が、学習によって物理的に変化するという興味深いことが明らかになりました。成人の学習者を対象とした研究では、海馬という記憶や学習、感情への対処に関わる部位の成長が見られました。若い成人の場合、短期間の語学学習でさえ、脳の生理学にこのような変化をもたらす可能性があるのです。海馬の衰えはアルツハイマー病と密接な関係があり、年をとるにつれて記憶力が低下することに繋がっています。
脳の老化を止めることはできませんが、第二外国語を話すことで、加齢に伴う認知機能の低下を遅らせることができるかもしれません。モノリンガルの脳とバイリンガルの脳の老化を比較すると、バイリンガルやマルチリンガルは高齢者の脳や認知機能の向上につながり、認知症の発症を遅らせる可能性もあるのです。
バイリンガルの高齢者は、集中力やタスクの切り替えなど、認知機能が優れていることが多いです。これは、バイリンガルの脳が定期的に言語を交互に使い、必要なときにどちらを使うか、どちらをオフにするかを選択するためと考えているからです。
第二外国語を子供時代以降に学んでも、脳に良い影響が与えられます。
何歳になっても、新しい経験(勉強も含む!)は脳の新しいつながりを強化し、形成するのに役立ちます。語学学習のレベルに関係なく、こうした新しい経験と練習を組み合わせることで、効果が得られるのです。
大人の学習者の場合、第二外国語の学習による脳機能の最大の向上は、すでにマルチリンガルでない場合に見られます。3つ目、4つ目の言語を学習する場合は、学習体験をユニークなものにするために、アルファベットの異なる言語や別の言語グループの言語を習得することを検討してみてください。
ここで分かったのは、アンチエイジング業界が魔法のような製品を宣伝していようと、脳の健康をサポートすることが長寿への鍵だということです。そして、新しい言語を学ぶことは、たとえ人生の後半であっても、脳を強化することによって、より長く健康的な生活を送る助けとなります。高齢者の脳機能の向上は、複数の言語を話す期間が長いほど、より強く見られます。つまり、今ほど学習を始めるのに適した時期はないということです!