「語学留学の脳科学的効用」に関する共同研究について
「語学留学の脳科学的効用」に関する共同研究について
EFエデュケーションファーストと東京大学との共同研究プロジェクトで、短期留学中に脳機能に大きな変化が生じることが初めて明らかになりました。この研究グループは、EFの語学キャンパスの1つであるEF東京校に入学した外国人留学生を対象に調査しました。
日本語を初めて学ぶ人(18~30歳の参加者15人で、ドイツ語・ノルウェー語・スペイン語・フランス語・オランダ語を母語とする生徒)を対象としたこの研究では、新しい言語を数か月勉強しただけで、脳の各領域の活動がどのように変化するかを測定しました。結果として、新しい言語を習得して約2ヵ月という短期間で、言語野や感覚野の脳活動が定量的に変化することが明らかとなりました。これは言語の習得が単に脳を活性化するだけでなく、脳機能を的確に変化させることを示しています。
初期状態
留学生は、少なくとも8週間の語学レッスンの後と、それから6〜14週間(平均は8週間)後に、日本語のリーディングとリスニングのテスト(4択式)を2回受けました。両方のテストの最中に、MRI(磁気共鳴画像法)のスキャナーを使用して、神経活動の指標である局所脳血流量の変化を測定しました。「左脳には、言語に特化した4つの脳領域があります。母語・第二言語・第三言語でもこの同じ領域が機能しています」と、東京大学の言語脳科学者である酒井邦嘉教授は述べています。
1回目のテストでは、これらの4つの言語野に加えて、視覚野や聴覚野といった感覚野の脳活動が観察されました。これは、なじみのない言語の文字や音声の認識にかかわる初期状態と見なすことができます。その後、留学生はEF東京で日本語の習得を続けました。
フォローアップ
2回目のテストは、約8週間の語学レッスンの後に、1回目と同じ留学生に対して実施されました。参加者の半数で問題のセットを入れ替えましたので、問題の順序や難易度は結果に影響しません。2回のテスト結果を比較したところ、リーディングのテストでは、成績が上昇して、リスニングのテストでは応答時間が速くなりました。
また、脳活動の変化を定量的に比較したところ、左脳の言語野では音声刺激において、左の視覚野ではリーディングにおいて、脳活動が減少しました。その一方で、右の聴覚野では音声刺激において、脳活動が逆に増加しました。「脳活動の減少は熟達による脳の省エネ化を反映しており、増加の方はリスニング能力の向上による注意の促進効果を示唆しています」と酒井教授は述べています。
脳科学的効用
「このように短期間の語学留学の効果が脳科学で実証できたことは、成績よりも直接的な評価法を与えるものとして期待されます。今回は語学留学のみを調査の対象としましたが、他の習得メソッドに対しても、その効果を定量的に比較できることでしょう」と酒井教授はその脳科学的効用を強調します。短期語学留学の間でも脳活動が的確に変化し始めるという今回の研究は、新しい言語を学びたいと思っている人に、年齢を問わず励ましを与える可能性があります。
「私たちは皆同じ人間の脳を持っているので、どの言語でも自然に覚えることが可能です」と酒井氏は力説します。 「たとえ短期間であっても現地の豊富な言語環境で学ぶことは、言語習得にとって極めて重要なのです。私たちはより良いコミュニケーションスキルを身につけるだけでなく、世界をよりよく理解し、さらに多くの人々や将来の社会への視野を広げるために、複数の言語でアイデアを交換したいものです」
留学と脳
論文の発表にあたって、EFアカデミックアフェア・バイスプレジデントのクリストファー・マコーミックは、次のようにコメントを公表しています:
「私たちは酒井教授の革新的な研究を通じて、語学の習得が脳の中でどのように進められているのか、その解明を目指しています。本研究の現段階では、<何>が<どのように>起こっているかを理解し、それを<なぜ>の解明につなげていくことが大切です。初期の研究で、第一言語、第二言語の使用で脳のどの部分・領域が使われているかがわかってきています。続いてMRI検査と画像の解析を通じて、学習期間中にこれらの脳の活動が<どのように>起きているかが明らかにされつつあります。
今後の研究によって、海外留学をはじめとする様々な学習経験が、脳の働きとして多言語の習得にどのように影響するか解明され、語学教育の取り組みが前進することを願っています。」